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海の隠れた財宝:未利用魚と共に築く持続可能な食の未来

公開日: 更新日:2024.04.15
海の隠れた財宝:未利用魚と共に築く持続可能な食の未来

漁獲量減少という課題に直面している日本の漁業。その活路となるとされているのが、これまで見過ごされてきた「未利用魚」の存在です。

1984年の1282万トンをピークに2018年には442万トンまで減少した漁獲量*
持続可能な漁業の実現と食卓の豊かさを両立するためには、新たな資源の活用が不可欠です。未利用魚は、まさにその鍵となる存在と言えるでしょう。

未利用魚の現状と課題、そして未来への可能性を探ってみましょう。

*水産庁:数字で理解する水産業


海の恵み、埋もれた宝:未利用魚

未利用魚


多様な魅力を秘めた魚たち

未利用魚とは、さまざまな理由から市場に出回らず、利用されない魚のことを指します。読み方は「みりようぎょ」です。

サイズが規格外:市場に出回る規格に合わないサイズの魚は、流通に乗りにくいため、未利用魚となります。
漁獲量が少ない:漁獲量が少なく、市場に出回るほど集まらない魚は、未利用魚となる場合があります。
見た目が悪い:見た目が一般的に好まれるものでない魚は、消費者に敬遠され、未利用魚となる場合があります。
調理方法が知られていない:一般的に調理方法が知られていない魚は、消費者に選ばれにくく、未利用魚となる場合があります。

例えば、メバチコウイカやギマなど特定地域でのみ捕獲される種類の魚は、漁業者によって捕獲されるものの、その外見や名前の知名度の低さから消費者にはほとんど認知されておらず、未利用魚となっています。

日本では、年間約500万トンの魚が未利用魚として廃棄されていると推定されています。これは、年間漁獲量の約2割に相当します。
水産資源の浪費、環境への負荷、漁業者の収益減少など、未利用魚問題はさまざまな課題を孕んでいます。


未利用魚の豊かな可能性

未利用魚の最大の魅力は、その多様性と未開拓の美味しさにあります。また、持続可能な食料資源としての価値も高く、漁獲圧の高い人気魚種への依存を減らし、海洋生態系のバランスを保つことに貢献します。さらに、地域経済において新たな市場を開拓する機会も提供するのです。

【栄養価の高さ】
未利用魚は、しばしば栄養価が高いという特徴を持っています。例えば、オメガ3脂肪酸や高品質のタンパク質、ビタミンやミネラルを豊富に含む種類が多く、健康志向の高い現代の食生活にぴったり合います。特に地域ごとの未利用魚を積極的に取り入れることで、地元の新鮮な海の幸を楽しむことができるでしょう。

【環境への配慮】
持続可能な海洋資源の利用という観点からも、未利用魚の活用は大きな意義を持ちます。過剰漁獲による人気魚種の資源減少を防ぎ、海洋生態系のバランスを維持するためにも、多様な魚種の消費を促進することが重要です。未利用魚を食卓に取り入れることは、海洋資源の持続可能な利用に直接貢献する行動と言えます。

【新しい味わいの発見】
未利用魚には、一般的に市場に出回る魚種では味わえない独特の風味や食感を持つものがあります。これらを料理に取り入れることで、食卓に新鮮さと変化をもたらし、日々の食事をより豊かなものにすることができます。例えば、一部の未利用魚は煮込むことで深い旨味を引き出すことができたり、珍しい食感を楽しむことができます。

【地域経済への貢献】
未利用魚の有効活用は、地域経済にも好影響を与えることがあります。地域固有の魚種を活用した料理や商品は、その地域の特色として観光資源にもなり得ます。また、地元の漁業を支援し、地域の食文化を豊かにすることにも繋がります。


未利用魚が食卓に届かない理由

流通の壁


認知度と経済性の壁

未利用魚の普及における最大の障害は、一般消費者や業界内での認知度の低さにあります。
多くの人々がこれらの魚の存在や利用方法、栄養価などについて知らないため、需要が生まれにくい状況です。また、既存の人気魚種と比べて需要が少ないため、漁師や販売業者がこれらの魚を市場に出すことに躊躇することがあります。

さらに、未利用魚を取り扱うための流通システムや加工技術が未発達であるため、コストがかかり過ぎるという経済的な障壁もあります。
未利用魚の流通を経済的に持続可能にするには、需要の確保と効率的な流通システムの構築が必須です。しかし、需要が低いために生産者や流通業者が十分な利益を見込めず、市場への導入が進まないという負のスパイラルに陥っています。

未利用魚をもっと身近な存在にするためには、認知度を高め、流通や加工の効率化を図る必要があります。



安定供給と鮮度維持の難しさ

未利用魚の市場への流通において、安定供給の確保と鮮度の維持が大きな課題です。多くの未利用魚は漁獲量が不安定であったり、特定の地域や季節にしか捕獲できないなど、供給の側面に課題を抱えています。

また、未利用魚特有の保存や取り扱い方法に対する知識不足が、これらの魚を新鮮な状態で消費者に提供することを難しくしています。鮮度を維持しながら消費者に届けるためには、適切な加工技術や物流システムが必要ですが、これらのコストや技術的なハードルが供給の安定性を損ねる要因となっています。


未来への架け橋:流通促進への取り組み

流通促進


漁師、行政、企業の連携

未利用魚の利用促進には、漁師、行政、企業の三者が協力して取り組む必要があります。

漁師たちは、持続可能な漁業を心がけ、未利用魚の供給源として、未利用魚の安定供給を目指します。これにより、貴重な海の資源を守りながら新たな収入源を確保することができます。

行政は、政策や補助金を通じてこれらの活動を支援し、未利用魚の流通促進や市場開拓を支援し、漁業の持続可能性を高める規制を設けることができます。

企業は、加工技術の開発や流通網の構築を行い、未利用魚を市場に適した形で提供することで、新たな販路を生み出します。

これらの各主体が協力し合うことで、未利用魚の認知度の向上、消費拡大、そして漁業資源の持続可能な利用が促進され、豊かな海の恵みを未来に継承していくことが可能になります。


消費者、料理人、メディアの役割

未利用魚の流通を促進するためには、消費者の理解と関心が不可欠です。
消費者は新しい食材への好奇心を持ち、未利用魚を試すことで需要を生み出します。

料理人は、その専門知識と技術を活用して、未利用魚を使った新しいレシピや料理法を開発し、これらの魚の美味しさと可能性を広める重要な役割を担います。

メディアは、未利用魚に関する正確な情報や魅力的なストーリーを提供し、社会全体の認識を変える力を持っています。

これらの役割が連携し、未利用魚についての情報を広め、その消費を促進することで、未利用魚の消費拡大に繋がるでしょう。


新たな販路と情報発信の重要性

未利用魚を消費者に届け、その魅力を伝えるためには、新たな販路の開拓と積極的な情報発信が極めて重要です。オンライン販売や直売所、レストランとの連携など、従来の市場以外の販路を通じて、未利用魚をより身近な存在にする取り組みが求められます。

特に通販は、未利用魚を市場に送り出す有効な手段として注目されています
オンラインプラットフォームを利用することで、地域限定で捕獲される未利用魚を全国の消費者に直接届けることが可能になります。また旬の未利用魚を定期的に届けるサブスクサービスや、缶詰、干物、ソーセージなど、未利用魚を使った加工品販売サービスなど、さまざまなサービスがはじまっています。

また、料理教室で未利用魚の美味しい食べ方を学んだり、ウェブサイトやSNS、レシピサイトで情報を発信したりする動きも活発です。これらの情報発信によって、未利用魚の調理法や魅力を広く伝えることで、消費者の関心を引き、需要を創出することが可能です。未利用魚を使ったレシピや商品を積極的に紹介するイベントやキャンペーンを開催し、認知度向上を目指すことによって、未利用魚の有効活用に向けた流れを作り出し、持続可能な食文化の構築に貢献することが期待されます。

これらの課題に対処するためには、物流システムの最適化や、消費者への信頼構築が鍵となります。
利用魚サービスは、海と食卓を繋ぎ、持続可能な漁業と豊かな食卓を実現する力を持ちます。関係者の努力と消費者の理解によって、未利用魚が食卓に当たり前に並ぶ日が来るかもしれません。


課題と展望

これらの取り組みが普及するには、消費者の認知度向上や味覚への理解拡大、供給体系の構築、収益性の確保など、課題も存在します。行政や企業による支援、新ビジネスモデルの開発、消費者意識改革などが期待されています。
通販では鮮度を保つための物流コストの高さや、消費者が実物を見ることなく購入を決断しなければならない心理的障壁があります。

そのため、教育とマーケティングを通じて、これらの魚種の美味しさや栄養価、環境への利点を伝える取り組みが必要です。
また、安定した供給体系の確立も課題です。漁獲量の変動や流通の難しさを克服し、消費者に手頃な価格で提供できるようにすることが、未利用魚の普及には欠かせません。

これらの課題に対応することで、未利用魚を活用する取り組みの展望は明るく、持続可能な漁業の促進や食文化の多様化に貢献する可能性があります。


未来を創造する:未利用魚の活用と持続可能な漁業

未利用魚の活用


未利用魚とSDGs

未利用魚の有効活用は、持続可能な開発目標(SDGs)、特に目標14「海の豊かさを守る」に直接貢献します。
乱獲の防止、海洋生態系の保護、食料安全保障の向上について、未利用魚の活用が海洋生態系の健全性を保ち、生物多様性を守る上で重要な役割を果たします。これらの魚種を食料資源として認識し、活用することは、乱獲による人気魚種の資源減少を防ぐことになり、漁業の持続可能性が向上し、将来世代のために豊かな海を保全することが可能になります。

さらに、地域ごとに特有の未利用魚を利用することは、地域経済の振興や新たな雇用機会の創出にも繋がり、SDGsの他の目標、例えば目標8「働きがいも経済成長も」目標12「つくる責任つかう責任」にも貢献する可能性があります。

また、未利用魚の普及は食料安全保障にも貢献し、例えば目標2「飢餓をゼロに」にも影響を及ぼします。未利用魚を市場に導入することで、新たな食料資源の確保と消費者の選択肢の拡大が促進され、持続可能な消費パターンが奨励されるのです。

未利用魚の普及は、持続可能な食料システムの構築、生物多様性の保護、そして気候変動への適応策の一環として重要な役割を果たします。


未利用魚の活用と未来

未利用魚の活用は、持続可能な漁業の推進、食文化の革新、食料自給率の向上、そして海洋生態系の保護という多面的な未来を創造する可能性を秘めています。

未利用魚を食文化に積極的に取り入れることは、消費者に新しい食体験を提供し、食材の多様性を広げることができます。さらに、これらの魚種を市場に導入することは、全世界の食料問題に対する有効な解決策となり得るだけでなく、新たな産業の成長を促し、漁業者の収入源としての可能性を拓くことができます。技術革新や流通システムの改善は、未利用魚の市場価値を高め、広範な消費者に届けることを可能にします。

未利用魚の新食文化

未利用魚を活用した料理は、新たな食文化の創造と地域経済の活性化に寄与しています。地方自治体やレストランがこれらの魚を用いたイベントを通じて、伝統食材の新価値を探求し、消費者に未利用魚の美味しさを伝えています。

世界各国での成功事例を見ると、未利用魚を用いた料理コンテストや、その魚を特集した料理教室などがあります。これらは、地域の人々だけでなく観光客にも未利用魚の美味しさを知ってもらい、地域経済の活性化につながっています。
さらに、未利用魚を使った新製品の開発や、これらの魚を主役にした食事会を通じて、新しい食トレンドを形成し、食の多様性と持続可能性を促進しています。


スーパーと通販の新取り組み

スーパーマーケットとオンライン通販の分野では、未利用魚を取り入れた新しい取り組みが始まっています。一部のスーパーマーケットでは、未利用魚を特集したコーナーを設け、消費者への教育と同時に販売を促進しています。

通販サイトでは、未利用魚を使ったセット商品が登場し、忙しい消費者でも手軽にこれらの魚を楽しむことができるようになりました。

これらの取り組みは、未利用魚の流通を促進し、消費者に新たな選択肢を提供しています。


未利用魚とサブスクの融合

サブスクは、未利用魚の市場を広げ、消費者に新たな食体験を提供する重要な手段として登場しました。このモデルを通じて、消費者は定期的にさまざまな未利用魚を試す機会を得ることができ、食の多様性と新鮮さを享受できます。
サービス提供者は、魚の調理法や背景情報を提供することで、消費者の関心を喚起し、教育する役割を果たしています。これにより、未利用魚に対する偏見が減少し、消費者の好奇心を刺激します。

サブスクサービスの導入は、未利用魚の新たな消費トレンドを形成し、持続可能な消費文化の構築に貢献しています。このアプローチは、未利用魚の可能性を広く伝え、市場拡大に向けた有効な戦略となっています。


持続可能な漁業と豊かな食卓

持続可能な漁業のため


海の恵みを未来につなげるためには、持続可能な漁業と豊かな食卓が不可欠です。未利用魚の活用はこの目標に寄与する重要な一歩となります。

持続可能な漁業とは、海洋生態系のバランスを保ちつつ、将来世代のために十分な食料供給を確保する漁業の実践を意味します。未利用魚の活用は、この目標達成において重要な戦略の一つです。海洋資源の過剰利用を防ぎ、多様な魚種への依存を促進することで、持続可能な漁業の基盤を強化できます。

また、持続可能な漁業の推進は、環境への配慮だけでなく、食料安全保障と地域経済の発展にも寄与します。未利用魚の利活用により、漁業が持続可能な方法で行われるようになれば、海洋生態系の健全性を維持しつつ、漁業コミュニティの生計を支えることができます。

さらに持続可能な漁業の推進は、豊かな食卓へと直結して、食文化の多様性と栄養面での利点をもたらします。未利用魚を活用することで、地域特有の食材を再評価し、地域内外での新たな市場を開拓する機会を創出します。また、これにより食の選択肢が広がり、消費者には新しい味覚体験が提供されます。
また、地域の食材を活かした料理を通じて、地域の食文化を豊かにし、観光資源としても価値を高めることが期待されます。

最終的に、未利用魚の活用と持続可能な漁業への取り組みは、豊かな食卓と健全な海洋生態系を未来世代に継承するための重要なステップです。これらの取り組みは、環境、経済、社会の三つの側面から持続可能性を推進し、地球全体の持続可能な未来に向けた重要な貢献をもたらします。



海の隠された財宝、未利用魚。その多様な魅力と可能性は、私たちの未来を照らす光となるでしょう。

未利用魚を食卓に届けることは、単なる食材の増加ではありません。それは、持続可能な漁業の実現、豊かな食文化の創造、そして美しい海の未来へと繋がる挑戦なのです。


・農林水産省:水産この1年

・水産庁:未利用魚の活用





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この記事を書いた人

中川

環境開発学を専攻し、大学時代に交換留学で訪れた北欧でエコライフに目覚めました。帰国後、国内外のエコプロジェクトに参加し、サステナブルな食文化や食品ロス削減のヒントを発信しています。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。